新たな出会い、紗鳥と理羽
著者:上総かんな。


春の日差しに当てられて、段々と温かくなっていく4月。
入学式もそこそこに。私は教室に戻ってきた。
クラスには話をする者、机に座って誰とも話せないでいる者、教室から飛び出して廊下で遊んでいる者。
その例に漏れず、私も自分の席から動かないでいた。
いや、正確には、『動けない』が正しいっいったところか。
多分ガチガチに緊張しているのが、他人からでも見てとれるくらいに。
慣れない場所での新しい生活にまだ抵抗があるのかも知れない。
鎮まれ、私。治まれ、鼓動。

「やっ」
「ひゃっ!」

いきなり声をかけられたのでビックリしてしまった。もしかしたら飛び上がってかもしれない。
振り向いてみると活発そうな女子生徒が立っていた。

「もぅ〜、そんなに驚かなくてもいいのに。」
「あ、ごめんなさい。」
「まぁ少しばかり驚かそうとしてやったんだけどね。」
「はぁ……。」

呆然と彼女を見上げることしか出来なかった。

「あ、自己紹介が遅れたね、私は興梠理羽、此処の中学出身だよ。」
「あ、………わ、私は支倉紗鳥と言います。よろしくお願いします。」
「あーもぅ敬語なんか使わなくていいよ〜、自然に話したいじゃん」
「あ、はい。でも慣れるまで時間がかかると思いますがよろしくお願いします。」
「あ、ついでだし、私の友達にも紹介したいんだけど、そこにいるから」

彼女が指差す方向には2人の女子生徒がいた。こちら側に手を振っていた。
そして理羽さんに手を捕まれ席を立ち、促されるままに彼女らの方へ向かった。

「紹介するね、左からA、Bだよ。」
「「待て――――っ!!!」」

2人の揃ったツッコミが理羽さんを突き刺す。ってそんな紹介なんだ。

「ぐはっ……いいノリをありがとう。」
「なんのなんの〜。」
「これくらいいつもの事でしょう?」

A、Bと言われた女子生徒達が順番に答えてゆく。

友達という名の通り、物凄い仲がよさそうだ。

「改めて紹介するね、有愛とかなでだよ。」
「九石有愛(さざらし ありあ)だ、よろしくな〜。」
「祝部かなで(ほうり かなで)です、よろしくね。」

と二様に言われる。

「よ、よろしくお願いします」と私も返す。
「で、こっちが――」
「紗鳥です、支倉紗鳥。」
「そう、紗鳥ちゃん。気軽に『さとりん』と呼んでみようっ。」
「いきなり決めるなよ。」

理羽さんの話にすかさず有愛さんがツッコむ。

「まぁ、呼びやすいように、どうぞ…。」

私はあまりあだ名とかつけられないので新鮮だと感じた。



「じゃ、今日どこかに行こうっ!」
「いきなりっ!?」
「え、だってHRが終わったら自由な時間だよ?」
「いやまぁそうだけれども。」

この三人のやり取りを見ながら私は少し微笑んだ。


此処から新しい生活が始まるんだな……。


なんて考えながら。


「紗鳥さん。」

唐突にかなでさんに呼ばれた。

「あ、はい?」
「この後、時間空いてる?」
「はい、何も予定は入ってないです。」
「理羽ちゃんが遊びに行こうって。」
「あ、わかりました。」


此処から。新しい生活が始まるんだ。
私は彼女達にかけていった。
窓の外では、桜が元気よく笑っていた。



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